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旅をするのが好きです。そして、それと同じくらい、旅行記を読むのが好きです。
バックパッカーをしていた20代のある時期は、沢木耕太郎さんの「深夜特急」に夢中になっていました。村上春樹さんの「雨天炎天―ギリシャ・トルコ辺境紀行」も、未踏の地であるギリシャ・トルコに思いをはせ、文庫本がぼろぼろになるまで何度も読んだものです。
自分が知らない国で、知らない人たちが、彼ら彼女らにとっての当たり前の日々の暮らしをしているということが、私にとっては、とても感慨深いことなのです。空想や、映画の中のできごとではなく、そこに本当にその人たちが存在している、というのがスゴイことのように思えるのです。
自分の小ささを知しること
「旅をする木」は、写真家の星野道夫さんが、実際にアラスカに住み、そこに暮らすエスキモーや白人たちの生活を独特の味わい深い文章で描いたエッセイ集です。私がこの本をしったきっかけは、藍玉さんのブログの星野道夫さんの『旅をする木』をつらかった頃の自分に読ませてあげたいという記事でした。
大自然の中では、こんなに私は小さいんだ。
この目で、この体で、“小さな自分”を感じるために、旅をするのだと改めて感じました。
(「藍玉スタイル」より引用)
藍玉さんのこの言葉がスーッと心にしみこみ、いてもたってもいられず、その場で本を注文。
大好物の旅行記(というよりアラスカの暮らしのエッセイですが)であるというだけでなく、私の知らない広い世界を見せてくれそうな本だと感じたからです。
アマゾンから本が届き、一気読みすることもできたのですが、それはせずに、33編あるエッセイを、ひとつふたつ・・・と少しづつ読みました。あるときは歯医者の待合室で、あるときは布団の中で。
どこで本を広げても、星野さんのリアリティのあるまっすぐな文章のせいか、はるか遠くのアラスカを思いながら読むことができました。
巻末の解説で、池澤直樹さんが取り上げていましたが、
頬を撫でてゆく風の感触も甘く、季節が変わってゆこうとしていることがわかります。
アラスカに暮らし始めて十五年がたちましたが、ぼくはページをめくるようにはっきりと変化していくこの土地の季節感が好きです
という冒頭の文章が、私も好きです。未踏の地アラスカをくっきり想像することができます。
確かに、その場に行って、その風景の中に立ってみなければわからないこともある。
けれど、それをした人の書いた文章を読むことで、その人が感じた幸福感のようなものを、なぞって反芻することができると思うのです。
私は14歳のときに初めて外国(アメリカ)に行きました。空港に降り立ったとき、地図や地球儀の上で見たアメリカではなく、本当のアメリカに来たんだ! ここで暮らす人たちがいて、お店があって、学校があって・・・私が知らなかっただけで、ちゃんとそこに存在している世界があったんだ!とショック(いい意味で)を受けたことを今でも鮮明に覚えています。
20代半ばでオーストラリアを旅したとき、どこまでも続く赤い大地や、岩だらけの風景を見ました。最寄りの町まで数百キロ離れているという砂漠の真ん中にひとりで住むおばあさんにも会いました。
世界には私の知らない場所がたくさんあって、そこで日々の暮らしを営んでいる人たちがいる。世界はなんて広いんだろう。そのことを思うだけで、少しせつないような、幸福な気持ちになるのです。
私が東京であわただしく働いている時、その同じ瞬間、もしかするとアラスカの海でクジラが飛び上がっているかもしれない
(「旅をする木」123ページ)
藍玉さんも引用していらっしゃいましたが、私もこの一文にハッとさせられました。私たちは、ともすると、自分のいるごく狭い社会が世界のすべてだと感じることがあります。なにかに疲弊し、消耗しているときほど、そう感じがち。
だけど、この本は、読む人に”一段高いところからの視界”を与えてくれる気がします。世界はこんなにも大きくて、広い。自分や自分の悩みなんてちっぽけなものなんだ・・・と。
せわしない毎日に心がすり減っていると感じる方に、ぜひ手に取ってほしい一冊です。
▼私にこの本との出会いをくれた藍玉さんの記事
藍玉スタイル: 星野道夫さんの『旅をする木』をつらかった頃の自分に読ませてあげたい
▼お友達の梅さんも藍玉さんの記事がきっかけで、同じ本を読んでいました。
梅ログ: 星野道夫さんの「旅をする木」を読みました 大切なのは生きることそのもの
▼レーズンアイスさんの感想記事
レーズンアイス 自然とともに: 『旅をする木』を読みました。
同じ本を読んでも、読む人によって受け取るメッセージが違う。それは、星野さんの文章が多層的で、読み手がいま抱えている何か(人によって違うもの)を刺激するからかもしれません。
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